笑気ガスのせいで大恥かいた

それはある授業中に唐突に起こった。
「ズキッ」
左前歯にいきなり痛みが襲った。頭の奥が抉られてるような鋭い痛みだ。
メモを取る右手を止めて、ひたすら痛みを耐える体制に入る。
その痛みはすぐに治まったと思いきや、また左前歯がバキバキと音を立てズキズキと脳みそをスプーンで抉るような激痛が襲う。赤ちゃんのように「オギャッ」と、痛みの波が来る瞬間に叫びたくなるくらい痛い。必死に耐えていても、その後痛みは治まる事もなく、口を閉じても、口の裏の皮膚と前歯が触っただけで激痛が発して何も食べられない状態がずっと続く。

こんな日のために俺はイブプロフェンを鞄にたくさん突っ込んである。
このイブは俺が万能薬としてあがめている物質である。つい数か月前は、これを飲むと明らかに元気になるとして毎日10錠くらい飲んでいた。筋肉痛も収まるし、全身の痛みが治まる、心の痛みも治まる、しかも胃を壊さない最強の薬だという事で。

しかし、今回の痛みには一切一ミリも効かないのだ。しかも寝る事すら許してくれない激痛である。トニンに入っているコデインも鎮痛効果が合った事を思い出して、一本一気飲みしても収まらない激痛なのだ。これは明らかに歯からの非常事態宣言だとして、次の日歯医者に行った。

先生がちょっとでも触ると痛いので、痛い痛いひたすら叫んだ。
「触るときは合図してください、心の準備が必要なんですわ」
と懇願するくらい痛くて過呼吸になる。
そんな俺を見かねて、先生が「じゃあとりあえず笑気麻酔かけるね、笑気ガス吸ったほうが痛くないから」と言った。俺は思った。
「この前やったけど全然効き目ないじゃねえか。他の麻酔かけてくれや」と。
そう、全然効かないのだ。だから、今回はひたすら吸って吐いた。効いてきましたか?と聞かれてもまだ、まだ、と何回も言って出来るだけ吸う時間を長くした。

ひたすら笑気ガスを吸う時間を伸ばしていたら、先生が来て「拉致があかないから治療開始するわ」と言う。治療が始まった。
治療をしている最中も基本的にはずっと笑気ガスを吸った状態で治療するが、ここで問題が起きる。

助手の目がキラキラと光っているのだ!そして何故だかとんでもなく可愛いのだ!
治療中何度も目を疑ったが、やはり目が輝いている。そして可愛い。この世の人間とは思えないくらい可愛い。
秒速で惚れた。これが一目ぼれと言う奴である。

助手についてあれこれ考えているうちに治療は無事終了した。神経を抜くことになったけど。

治療終了後に、俺は何をトチ狂ったか知らないが
俺「あの、あなたに一目ぼれしてしまいした、あああ、あの~電話番号交換とかどうっすかね^^;」
助手「無理です」
俺 「はい」
助手は必死に腕をぶんぶん振って俺を拒否した。相当嫌だったのだろう。

その後に顔を見たら、笑気ガスを吸っていた頃の目の輝きもなく、俺の好みの顔でもなく、何故俺はこんなバカな真似をしたのかと後悔した。
そしてとても恥ずかしい。そもそも告白なんて自分からはわざわざしないタイプである。そして一目ぼれなんてしないタイプなのだ。何故こんなことをしたのか本当に謎である。笑気ガスのせいに違いない。

帰り際、受付の人に「さっきの助手の人にすいませんでしたと伝えておいてください」と言って去った。
一応、次の予約を取ったが、恥ずかしくてとてもじゃないが行けない。また、出禁をくらったらもっと恥ずかしい。
だからその歯医者に行けてない。

助けて。